日本遺伝学会、用語改訂により「優勢」「劣勢」など廃止

並べられた本

2017年9月6日、日本遺伝学会が「優勢」「劣勢」といった用語を廃止・改訂しました。誤解や偏見に繋がる、分かりにくい用語が改訂され、遺伝学用語集の改訂版が9月下旬に発売されます。

優勢は顕性、劣勢は潜性に

長年遺伝学の訳語として使われてきた「優勢」「劣勢」という用語は、それぞれ「顕性(けんせい)」「潜性(せんせい)」という言葉に変わりました。
優勢・劣勢という言葉では、遺伝子自体に優劣が存在すると誤解されることが多く、本来の意味から離れていました。もともと遺伝子には優れている・劣っているという考え方はなく、表に現れやすい性質(dominant)、現れにくい性質(recessive)で分けられています。この特質が伝わりやすくするため、顕(はっきり目立つ、あきらか)と潜(もぐる、隠れる)という言葉に変わりました。

遺伝学(genetics)
生物の遺伝現象を研究する生物学の分野のひとつ。ドイツの研究者グレゴール・ヨハン・メンデルが1857年からエンドウの交配実験・分析を続け、遺伝の法則性(メンデルの法則)を発見。遺伝には顕性・潜性があるとした。
メンデルの法則は大きな評価を得られなかったが、1900年に法則の重要性が再発見され、現在の遺伝学は生物学のあらゆる分野に深くかかわるものへ発展した。

そのほかの用語変更

優勢・劣勢の他にも、変更された用語があります。
バリエーション(variation)の訳語のひとつ「変異」は「多様性」に変更。「変異」は「突然変異(mutation)」という言葉があり、紛らわしいイメージがあります。本来の意味である「遺伝情報の多様性が一人一人違う特徴になる」という考え方が正しく伝わるようにするため改訂されました。

「色覚異常」「色盲」といった言葉は「色覚多様性」に変更されます。色覚異常や色盲という言葉では病気のようなイメージを含み、「おかしいこと」という偏見や誤解が生じる元となります。色の見え方は人によって多様だという認識が変更の理由です。
大まかな例を挙げると、日本人と欧米人は色の見え方が異なります。これは目の中にある虹彩(こうさい)がもたらすもので、光の感じ方や色の見え方にかかわります。色の感じ方の違いは、大なり小なり人それぞれにあるものなのです。

学会長の小林武彦東京大教授は、「改訂した用語の普及に努める。教科書の用語も変えてほしいと、文部科学省に要望書も出す予定」とコメントしています。